2023.05.11疾患から探す

眼科専門医 森田修

糖尿病網膜症は、糖尿病腎症や糖尿病神経障害とあわせ三大合併症の一つです。

糖尿病を罹患されている方は、症状がなくても、定期的に眼科を受診しましょう。

糖尿病網膜症とは

糖尿病網膜症とは、糖尿病の患者様に引き起こされる合併症の一つになります。

糖尿病は血管の障害を招き、それは網膜についても同様です。最悪の場合には失明する病気ですので、しっかりと通院して治療を受けましょう。

網膜とは目の内側にある、対象物(目の中に入ってきた光や色といった情報)を映し出すスクリーンの役割をしている組織です。この機能を果たすために、無数の血管が通っているのですが、糖尿病が原因で血管が傷み、網膜へ十分な血流が送れなくなると糖尿病網膜症を発症します。

糖尿病網膜症は、糖尿病腎症、糖尿病神経症と並んで、糖尿病の三大合併症であり、糖尿病の患者様のおおよそ3分の1の方が網膜症を発症するといわれております。

失明の原因としても代表的な病気ですが、定期的な検診と早期治療で症状の進行を抑えることは十分に可能です。

糖尿病網膜症の症状は、病気の進行度合いとともに変化します。

最初は自覚症状がないため、気がつきにくいですが、症状が進むにつれて目のかすみ、視力低下、飛蚊症といった症状が引き起こされます。症状が進行していても放置をすると治療が難しくなり、最悪失明にいたることもあります。

糖尿病網膜症の初期段階(単純糖尿病網膜症)

網膜の毛細血管が脆くなります。それによって、小さな出血点(点状出血)が起きますが、まだ自覚症状がみられません。

糖尿病網膜症の中期段階(前増殖糖尿病網膜症)

症状が進行していることで、目がかすむといった症状があらわれることがありますが、この段階でも自覚症状がない場合も十分にあります。

網膜の血管がつまり、酸素や影響不足に陥ります。虚血(血液が送れていない所見)や出血を多く認めます。また網膜組織の血のめぐりが悪く、部分的に腫れている(黄斑浮腫)こともあります。

糖尿病網膜症の末期段階(増殖糖尿病網膜症)

糖尿病網膜症が重症化した状態です。

網膜の血の巡りが悪く、血液の不足を補うために未熟な新しい血管(新生血管)が作られます。新生血管はもろいためすぐに破れて出血を引き起こしたりします。

新生血管や生じた出血が目の中で拡がり、硝子体やその他の目の組織まで到達すると、視力低下や見えづらさ等の症状を引き起こします。

この状態まで陥ると、増殖膜という悪い膜が網膜の上に張り、網膜剥離を引き起こす可能性もあり、最悪の場合は失明にいたる危険性があります。

糖尿病網膜症の原因

糖尿病網膜症は糖尿病の合併症にあたります。

糖尿病とは、血糖値(血液中に含まれるブドウ糖の濃度)が慢性的に高くなっている状態です。血糖値が高い状態が続くと血管に負担が大きくかかり、徐々に血液の流れも悪くなります。また、詰まったり変形したりすることで出血も起こりやすくなります。

特に網膜は細かい血管が数多く集まっているため、糖尿病による血液障害の影響を大きく受けてしまいます。

網膜の血管に異常が起き、網膜に栄養が十分に届かなくなると、無理やりにでも網膜に栄養を届けようと新しい血管(新生血管)が作られます。この新しい血管は未発達でもろいため、すぐに破れたりして出血が生じます。こうしてさらに新しい血管ができ、出血したりが続く状態に陥ってしまうことで、視界がかすんだり、視力の低下といった症状を引き起こします。

糖尿病網膜症の対処法

糖尿病網膜症の治療は全身管理、レーザー治療、硝子体注射、硝子体手術などがあります。病期(重症度)や状況によって治療法は異なりますが、共通するのは大元であるお体の状態を整えることです。内科主治医と連携して加療にあたります。

黄斑浮腫に対して

 糖尿病による血流障害によって、網膜の中心部である黄斑に浮腫(むくみ)が生じた状態です。これに対しては抗VEGF薬の硝子体注射やステロイド製剤のテノン嚢下注射を行います。また、レーザー治療でむくみの原因となっている毛細血管の瘤をつぶしたりもします。当院ではこれらの治療に対応して、状態をみながら組み合わせて加療にあたります。

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網膜症に対して

糖尿病網膜症は、初期段階であれば、血糖値をコントロールすることで治すことも可能ですしかし、血糖コントロールが未治療で網膜症がかなり進行した状態で発見されると治療が難しくなります。

1)初期段階(単純糖尿病網膜症)

 糖尿病自体の治療と同様で、血糖値のコントロールを行います。

 血糖値のコントロールがうまくできれば、糖尿病網膜症も快方に向かうケースが多いです。

2)中期段階(前増殖糖尿病網膜症)

新生血管の発生を防ぐための治療を行います。網膜へのレーザー光凝固を行います。この治療で視力が回復するわけではありませんが、網膜症の進行を阻止することができます。レーザーをしないで放置すると徐々に悪化して失明に至る危険もあります。当院でもレーザー治療を行っております。

3)末期段階(増殖糖尿病網膜症)

進行を抑えきれなかった場合やすでに網膜症が進行して網膜剥離や硝子体出血が起こってしまった場合には、硝子体手術が必要になります。出血の程度が軽ければレーザー光凝固で抑えられることもあります。 

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治療の費用(目安)

1割負担3割負担
硝子体内注射1.5〜1.8万円5.0〜5.5万円
レーザー光凝固1.0〜1.8万円3.0〜5.0万円
硝子体手術1.8万円9.0〜15.0万円

 ※1割負担の方は高額療養費制度を利用した場合の費用です。